こころ論文研究室
創造

収束する思考と広げる思考 ── どちらが成績を押し上げるか

📄 Convergent thinking, divergent thinking, and openness to experience as predictors of academic success among high-achieving and typical-achieving medical students.

✍️ Abdulla Alabbasi, AM, Alansari, AM, Deifalla, A, Runco, MA, Sequeira, RP, Alotaibi, GA, AlSaleh, A

📅 論文公開: 2026年1月

創造性研究 収束的思考 拡散的思考 医学教育 学業成績 横断研究

3つのポイント

  1. 1

    医学生 274 名を対象にした横断研究で、収束的思考(β=0.20)と拡散的思考(β=0.25)はともに GPA を正に予測した。

  2. 2

    経験への開放性は GPA と小さな負の関連(β=-0.13)を示し、構造化された医学教育との複雑な相互作用が示唆された。

  3. 3

    高達成の学生ほど思考スキルの恩恵が強く現れるという調整効果が認められ、達成水準によって関連の大きさが変わることがわかった。

論文プロフィール

  • 著者: Abdulla Alabbasi AM ら(7 名)/ 2026 年 / BMC Medical Education
  • 対象: アラビア湾岸大学の医学部生 274 名(問題基盤型学習〔PBL〕環境)
  • 調査内容: 収束的思考・拡散的思考・経験への開放性の 3 つが GPA を予測するか、また達成水準(高達成 vs. 標準達成)がその関連を調整するかを階層的回帰分析で検証
  • 証拠の強さ: 横断研究のため、変数間の因果関係は示せません。

エディターズ・ノート

「広げる思考」と「絞る思考」はどちらが学業成績に寄与するのか。創造性研究の文脈で対比されることの多い二つの思考様式を、学業成績の予測子として正面から検討した研究です。「創造」様式を照らす知見として届けます。

何がわかったか

アラビア湾岸大学の医学生 274 名が参加しました。各参加者は、 収束的思考 (レーヴン漸進的行列検査・ワトソン=グレイザー批判的思考評価)、 拡散的思考 (代替用途検査・図形的拡散的思考検査)、経験への開放性(NEO-FFI)を測定する尺度に回答し、GPA は大学の公式記録から取得しました。

年齢・性別を統制した階層的回帰分析の結果は以下の通りです。

  • 収束的思考:β = 0.20(p < .001)― GPA を正に予測
  • 拡散的思考:β = 0.25(p < .001)― GPA を正に予測
  • 経験への開放性:β = -0.13(p = .026)― GPA と小さな負の関連
GPA を正に予測した思考スキルの β 値(Abdulla Alabbasi ら, 2026, BMC Medical Education) 0 0 0 0 0 0 標準化回帰係数(β) 0.2 収束的思考 0.25 拡散的思考
GPA を正に予測した思考スキルの β 値(Abdulla Alabbasi ら, 2026, BMC Medical Education)
項目 標準化回帰係数(β)
収束的思考 0.2
拡散的思考 0.25
GPA を正に予測した思考スキルの β 値(Abdulla Alabbasi ら, 2026, BMC Medical Education)

収束・拡散の両思考は独立して GPA を予測しており、どちらか一方の効果を除いても他方の寄与は有意でした。また達成水準は収束・拡散ともに有意な調整変数となり、高達成の学生ほど思考スキルと GPA の関連が強く、標準達成グループでは関連が弱まっていました。経験への開放性には調整効果は見られませんでした。

🔍 経験への開放性がなぜ負の関連を示したか

経験への開放性(Openness to Experience)は、新奇性の希求・想像力・非順応的な思考スタイルと結びつく性格特性です。創造性研究では通常「プラスの資源」として扱われますが、この研究では GPA と小さな負の関連(β = -0.13)が得られました。

論文著者は「構造化された医学訓練と開放性の複雑な相互作用を反映している」と考察しています。高度に構造化されたカリキュラムと標準化されたテスト評価の環境では、開放性の高い思考スタイルが必ずしも点数に直結しない可能性があります。「開放性を下げれば成績が上がる」という解釈ではなく、測定された環境固有の現象として捉えることが重要です。

🔍 この研究の限界と解釈の注意点
  • 横断研究: 「思考スキルが成績を高める」のか「成績が高い学生が思考スキルも高い」のか、因果の方向を特定できません。
  • 特定集団: アラビア湾岸大学の医学生というサンプルであり、他の学術分野・文化的文脈への一般化は慎重に。
  • 効果量の大きさ: β 値はいずれも小〜中程度(0.13〜0.25)であり、実践的な介入効果の大きさを直接示すものではありません。
  • GPA の限界: 学業成績は学習能力の一側面に過ぎず、問題解決能力や創造的思考の全容を反映しません。

理論的枠組みとの接続

拡散的思考 は、1950 年代に Guilford が創造性の中核として提唱した概念です。複数の解を広く生成する能力を指し、 収束的思考 (唯一の正解に絞り込む力)と対を成します。従来この二分法は「創造性を測る枠組み」として発展してきましたが、本研究はそれを学業成績の予測子として検討した点に新しさがあります。

収束と拡散がほぼ同程度の独立した寄与(β = 0.20 と 0.25)を示したことは、両者が「対立」でも「代替」でもなく、相補的な機能を持つという見方を支持します。問題を広く見渡してから答えに絞り込む、という思考の流れが学業文脈でも機能している可能性を示唆します。

自己観測への手がかり

自分の思考が「広げる方向」と「絞る方向」のどちらに傾きやすいか、振り返ってみることができます。たとえば、課題を前にしたとき最初に思いつく選択肢の数はどのくらいか。あるいは一つの答えを出した後、別の可能性を探しに戻ることがあるか。どちらの傾向が強いかは固定したものではなく、状況や訓練によっても変わります。この研究は「どちらが正しい」を示すものではなく、自分の思考の様式を眺める手がかりとして受け取ることができます。

読後感

あなたはふだん、問いに向き合うとき「まず広げる」と「まず絞る」のどちらを先にしていますか? そしてそれは、場面によって変わりますか?